『大阪観考』を企画監修した木ノ下智恵子さんに聞きました。
美術家のような視点で旅することのメリットは?

木下智恵子さん インタビュー

「観光」という言葉の本来の意味は、「地域の優れたものを観察する/観せること」という説があります。その意味に着目したのが、アートツーリズムブック『大阪観考』。大阪に縁があり、世界の第一線で活躍する美術家5 名が、独自の視点で大阪の街を歩き、魅力を捉え、考え、作品を生み出しました。「本の中で表現されているイメージの世界を旅し、美術家の思考と感性に触れる旅をし、そのあと実際に大阪を旅する。それは自分自身を旅することにも繋がる」。このように広い意味での「旅」が可能な一冊であると語るのは、a c c e s s t o O s a k a のプロジェクトメンバーとして、この本の企画監修を務めた大阪大学コミュニケーションデザインセンター特任准教授の木ノ下智恵子さん。普段からアートと社会をつなぐプロジェクトやワークショップを開催する彼女ならではの企画力により、それぞれの作品を読み解くための識者との対談や作品に関わるスポット紹介を添え、アートに詳しくない人でも楽しめます。そして、木ノ下さんの想いがとても深いがゆえに、『大阪観考』が大阪の新しい魅力を知る鍵となるだけではなく、今、不安を抱える日本にとっても光の鍵となり得るのではないか、そう思えました。

停滞している感覚には独創的な視点が必要。

新しい大阪の魅力を見つけるためには、今までと違う視点が必要です。その視点を持つ人は、独創的なモノの見方や考え方を持っている美術家であると考えました。実は、美術家の力というのは、様々なところで発揮してほしいと常々思っています。というのは、彼らの個性や生き方が、今この不安を抱く日本において必要だと思うからなんです。美術家は常にものづくりをしたり、イメージを膨らませたりして、オリジナリティのある作品を生み出しています。つまり、自分を、個性を、大事にしているんですよね。我のままに生きている。それはいわゆるワガママではなく、自分に全ての責任を課する生き方です。彼らは、どんな状況であっても常に結果を出さないといけないシビアな世界にいて、罵倒も賛美もひとりで背負わないといけない。そんな中で生きているのだから、精神力も、体力も、タフですよね。どんな状況においても、生きていける。これは、今日本を不安定にしている原因といえる、クリーンな部分だけを正しいとする姿勢や、何事も人に責任を負わせる無責任な人生を送っている人たちとは、正反対な生き方です。だから、美術家のように生きられたら、みんなが人生を楽しめる社会となるのでは?と私は思っているんですけどね。
自分が同じところにいることで、見えなくなってしまった価値観や、蔓延している気持ち、停滞している感覚が生まれてきますが、他人の視点になると、ハッと気付かされることが多々ありますよね。その点で、美術家の個性や生き方が、私たちの知らない扉を開けてくれるのではないでしょうか。


個人が深めた表現には強いメッセージ力がある。

また、何万人もの人を意識して作られたものは、本当のところは心にグッとくるものではないかもしれない、と私は思っています。一方で、とても個人的なことで深めていったものほど、多くの人にメッセージが伝わっているような気がします。美術家は後者ですよね。だからこそ、多くの人に伝える表現力を持つ才能の持ち主であると言えます。もちろんすでに、彼らは世界各国で、それを実践していらっしゃるし、作品が旅して、メッセージを伝え、感性を揺さぶっています。ビジュアルが持つメッセージ力というのは、言葉以上に、多岐に渡って伝わる強さがあるんです。だから、大阪の魅力を伝えてもらいたかった。
そんな想いで厳選した5 名は、「よくこんなゴージャスなんやってるなぁ」と御本人たちにも言われたぐらい豪華なメンバーになりました。選んだ基準は、ビジュアルブックという形式として、作品を構成でき、意欲的にチャレンジしてくれる人ですね。本づくりに対して才能を発揮できる、あるいは才能を秘めておられる方。街の見え方や、歴史、感じ方が違うほうがよいので、年齢も性別も経験値もばらつかせました。


大阪も日本も乗り越えるために「観考」は重要。

今回、彼らと一緒に大阪を歩き、時代を超え、話をして、イメージを膨らませました。さらに、彼らの作品と、対談者の考えも知ってわかったことは、歴史、文化、人、すべてにおいて、大阪は層が厚い、ということです。そこには、一般的に見てハッピーでもなく正しくもなく美しくないものも、ナイーブな問題も含んでいるのですが、それも含めて大阪だ、ということが見えてくるんじゃないかな、と。いろんなものを許容しているのが大阪だ、と感じますね。だから、クリエイティブなことができたり、実験みたいなことができたりする。その結果、今回のような世界で活躍する美術家を輩出する土地となり得た。それって、珍しいことだと思います。
とはいえ、あくまで、この本は大阪について、お笑いやたこ焼きではない、もう一方の全然違う見え方をする大阪に気付いてくれたらいいなと思うキッカケづくりです。ですから、追体験をするだけではなくて、独自の大阪観考をしてもらいたいですね。本来見えないものとか、見えているものの、もうひとつ違うイメージの世界に入っていただきたい。「それだけじゃないでしょ!」ということを探るというか、発見するというか。そういう感じになっていただけたらなという想いでの5 名の視点が詰まっています。
広い意味でいうと、まちと、日本と、向き合う態度ということも表現している。それを深読みして、読み解いてもらいたいですね。今まで、経済や産業的利益の追求で物事を突き進めてきた私たちは、もう一度、立ち止まって、考えて、立ち上がっていかないといけない時代に来ています。そんな時に、想像力は、乗り越えられる力を生み出します。そのためにも、「観考」することは、とても先駆的で重要です。

木下さん
大阪大学CSCDの木下さん



「心斎橋空想美術館」 森村 泰昌



「ラッキードラゴンの伝説」 ヤノベ ケンジ



「ゐないゐない」 束芋



「ロックシティハーモニクス」 伊藤 存



「阿倍野の窓女」 松井 智惠


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